その昔は、番頭さんというのは、大変力を持っていたのだそうで、主人は、店の方にはほとんど顔を出さない。番頭さんが一切合切を取り仕切っていたのだそうです。
さて、あるところに非常に几帳面な番頭さんがおりました。
ところが、この番頭さん、仕事の時は生真面目を絵に描いたような人なのですが、これがなかなか遊び上手な人で、休みの日なんかは、芸者遊びなんかもぱっとやってしまうような人でした。
その番頭さんが、いつものように休みの日に、芸者を引き連れて遊んでいると、間の悪いことに主人とばったり顔を会わせてしまいます。今とは違いまして、プライベートな時間なんて言葉のない時代です。あ、しまった。と思ったが、もう遅い。その場は、「どうも、ご無沙汰しております」なんて言葉を濁して、さっと帰って参りましたが、これはもうクビだなとビクビクしながら一晩を過ごしました。
翌日、主人に呼ばれます。いよいよ、これでクビか。明日から、焼き芋でも売って歩こうかなどと身の振り方を考えていると、主人はニコニコして、こんなことを言います。
「いや、お前さんが、あんなに遊び上手だとは思わなかった。あたしゃ嬉しくなりましたよ。大店の番頭たるもの、あんまりしみったれたことでは、お客様もやりにくくなります。パッと使うときは使う。こうじゃなくっちゃいけません。しかも、お前さんは、店の金を使い込むどころか、自分のお金であれだけの遊びをしてしまう。本当にあたしは感心しましたよ。不出来な主人だが、これからもよろしく頼みますよ」
これを聞いて、番頭さんは感動して、一生、この店で働こうと決意を新たにします。
「ところで」
と主人が、言いました。
「お前さんは、あたしの顔を見たときに、『ごぶさたしています』なんて言っていたけど、あれはどういうことだい」
「えぇ、あんな所を見つかって、こりゃもう『ここで会ったが百年目』と思いまして」
http://homepage3.nifty.com/~tomikura/